『A』
単純な戦闘力では、貫は一輝の足元にも及ばないだろう。
この世に生まれ落ちて40年以上、一日も休まず研鑽を続けて来た一輝の肉体と技術は、仮に、あの超絶戦闘力を持つ大塚亮が戦ったとしても、勝てるかどうかわからない。
それだけの男を相手にして、貫全く心が折れず、己の勝利を信じて疑わない。
構えを解く一輝。
この戦いにおいて、小手先の技術等不要だと、頭ではなく本能で理解したのだ。
貫とて、それは重々承知している。
二人は示し合わせたかの如く、同時に、ゆっくりと、互いに向かって歩き出した。
一歩一歩を踏み締める。
互いに徐々に近付いて来る、倒すべき敵。
決戦を前に二人が思うものがなんなのか、それは誰にもわからない。
そこは完全に二人の世界、二人のみの世界。
全くの同時に歩を止める二人。
「………」
「………」
お互いに無言、やはり血の通い合った親子、こういう時に何も言わなくても、今後の展開を理解し、無意識に二人で協力し、相応しい舞台を作り上げる。
互いに手の届く距離、クロスレンジによる接近戦。
この戦いで競い合うもの。
それは、堀田貫という男と。
黛一輝という男の存在自体、単純に、一人の人間としてどちらが上か。
あまりにもシンプルなやり方で競い合う。
技術も、防御も、何もかもかなぐり捨てた殴り合い。
原始の戦いを制するのは、果たしてどちらの雄か。