『A』
「ぬうおりゃあぁーっ!!」
「だあああぁぁぁぁっ!!」
…ドンッッ!!!
「ぬぅっ!」
「くっ!」
同時に互いの顔面に拳を突き立て、同時に顔面が弾かれる。
全く怯むことなく、第二撃、三撃…と、攻撃を繋げる二人。
ただ、目の前の相手を殴り倒す。
そのことだけを考えて、ひたすらにひたむきに、己の拳を相手にぶつけるだけの一点突破。
その場に足を止めての殴り合い。
一歩でも退けば負けることを、本能で理解している二人は、僅かばかりも退がらないという意志を込め、両の足でしっかと大地を踏み締め、力の限り踏ん張る。
――それは、異様な光景だった。
小柄で全く筋肉のついてない、言ってしまえば貧相な体格の貫が、鍛えられるだけ鍛えた、まるで城塞のようにガッシリとした一輝と、一歩も退かず正面から殴り合っているのだ。
これは、今正に二人の《強制言語(ザ・ワード)》の力が、拮抗していることを表す。
既に互いに繰り出した拳の数は数十発。
それだけの拳を受けて尚、二人の勢いは留まることを知らない。