『A』
 
ジリジリと、怪盗ジャムがにじり寄って来る。

移動する際も構えを少しも崩さない辺り、流石と言わざるを得ないだろう。

徐々に縮まっていた二人の間の距離が5m程に近まった…その時!

「アン!ドゥ!トロワ!!」

「うぉっ!」

突如亮の視界の中で巨大化した怪盗ジャムが、一呼吸の内に突きを3回…喉、心臓、水月(みぞおち)目掛けて繰り出して来た。

それらをかろうじて躱す亮、単純なスピード・動きの速さ、それ自体は負けていない。

「…失礼、つい癖で、急所ばかり狙ってしまった」

「…フェンシングなんざ単なるスポーツだと思ってたんだがな…
認識を改めさせられたぜ」

「フフフ、かすり傷一つ負えないということをお忘れなく…」

「へっ、上等ぉ!」

サーベルとは言いつつも、実際にはステッキの先に僅かばかりの刃物が付いただけのもの。

必然的に、攻撃は突き一本に絞られる。

しかし、突きのみしかないと分かっていても、組み伏せるのは容易ではない。

一つには、ステッキが常に相手の視界に“点”と見えるように構える怪盗の技術。

更には、本来の腕の長さにステッキの長さを足したそのリーチ。

その長さは、格闘においては絶望的な程のもので、そのリーチ差は、あたかも3m超の巨人とボクシングをさせられているようなものであった。
< 46 / 401 >

この作品をシェア

pagetop