『A』
 
「………」

「………」

場がもたない…。

石姫は基本無口で、話し掛けて来ることはまずない。

更に、話し掛けても、まともな返事が返って来ることは稀で、貫もまた、あまり話し掛けない。

…とはいえ、同じ職場の仲間なのだ、会話位できるようにならなければ困るだろう、と、ふとそう思い、貫は思案する。

…差し当たって、何やら熱心に、食い入るように見ているパソコンの画面、そいつを話題にするのが正解だろう。

そう判断した貫は、早速実行に移してみた。

「…何見てるんですか?」

「!………」

「………」

「………」

一瞬ピクリと動きはしたが、思った通り返事はなし。
だが、これも想定内のことだ、いちいちこの程度でめげていられない。

 
「………」
(ソ〜っと………)

…コッソリと画面を覗き込む。

見ると、なにやら沢山の可愛らしい猫の写真。

「へぇ…猫…好きなんですね」

「!………」

話し掛けた瞬間、慌てて画面を別の画面に変える。

「別に………普通です」

「そ、そうなんだ…」

………

「好きなら、飼ったらどうですか?猫」

「…別に好きじゃないです………
…別に、好きじゃないですけど……飼えないんです
キョーコが、動物駄目だから…」

「ああ、そういえば…」

「………」

「………」

………会話が途切れ、これ以上は無理だと判断。

特に用事があるわけではないのだが、貫は事務所から出ることにした。

「…では、ちょっと出掛けて来ます
…綾瀬さんもたまには外に出てみたらどうですか?
今日はいい天気ですよ」


「………いってらっしゃいです」

「………」

…片手を上げ、小柄な男が外へと出掛けて行った。
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