『A』
 
邪魔者が消えたのを確認した石姫は、再びパソコンで猫の写真を見始めた。

………

1時間程猫写真を堪能した石姫は、背伸びをしながらパソコンの電源を落とす。

「………外…か」

この少女、普段滅多に外へは出掛けない。

外出するということに、あまり興味がないからだ。

だが、何故かこの日は、どういうわけか、外へ出てみようか、という誘惑に誘われた。

それが、天気のせいか、小柄な男の提案のせいかは分からないが、少女はしばらくぶりに、事務所の外へと出掛けて行った。 

「………暑…」

一旦外へ出たものの、すぐに強烈な夏の陽射しに負け、事務所へ帽子を取りに戻る。

帽子を被り完全武装!今度は大丈夫だ。

青白いワンピースに、可愛らしい帽子、さらに、整い過ぎる程に整った彼女の容姿を合わせると、まるでフランス人形のようだった…。

テクテクテク…

特に目的を持って出掛けたわけではない。

テクテクテク…

だから、とりあえずブラブラと歩いて見た。

テクテクテク…

少女が外出しないのは、街並みに見飽きたからだ。

テクテクテク…

だが、久しぶりに歩く街の風景は、変わっているところが多くあり…

テクテクテク…

「………♪」

思った以上に楽しめた。

テクテク…テク…

ただ、慣れないことをするとやはり疲れる。

テク…テク……テク…

もう帰ろうか…特にまだ何かをしたわけではないが、そう、ふと考えた瞬間。

テク…テク………ピタ

“ソレ”を見付けてしまった…。

大きなつばの帽子を被り、身長も高くはない少女が、本来見付けられる場所ではないのだが。

人間、とかく好きなものには鼻が効くもの…。

並木道の木の一本、その枝の一本に、下りられなくなっている一匹の黒い小猫がいることを、少女は発見したのだった。
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