『A』
 
       ◇

亮がパチンコ店でドル箱の下敷きになっている頃…石姫は、狙い通り小猫を木から揺さぶり落とすことに成功し、落ちて来た小猫を、運動神経がないなりに頑張り、どうにかこうにかキャッチした。

スライディングキャッチをしたので、ひざ小僧を擦りむいてしまったが…

「…よかったね、ニャア」

その顔は、実に満足そうであった。

手段自体は褒められたものではなかったかもしれないし…もしかしたら怪我人が出たかもしれない…だが、誰も彼女を攻められまい、元々、善悪の区別等つかないのだから。

彼女の髪の色のように、彼女の中身は真っ白。

彼女はまだ子供…ただ、本来子供が持ち得ない能力を持ってしまっただけなのだ。

小猫を抱いて笑う彼女の顔は、年相応な少女の笑顔で…滅多に笑わない彼女の笑顔は、誰にも踏みにじられていない雪原のように眩しかった…。

「………帰ろ」

…小さな黒い猫を抱いて、白い少女は家路に着いた。
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