『A』
 
家主に迎えられ、中へ入る少女。

ここは、大塚亮の家、所謂高級マンションというやつで、15階建ての最上階に住んでいる。

世話は基本石姫がする、という約束で、小猫を亮が引き取った。

井上というのは猫の名前で命名は亮、石姫は最初嫌がったが、亮がしつこくそう呼ぶので、妥協案として…
『井上雪(いのうえ ゆき)というフルネームだ』
という裏設定を付け加えることで納得した。

石姫が雪が好きなことを知っている、亮の奸計であった。

「はい、ご飯です」

「お、よし、井上、食おうぜ」

「ニャ〜」

石姫が二匹分のご飯を用意する。

もちろん、亮と井上の分だ。

放っといたらコンビニのご飯で済ませてしまう亮の為に、ついでだからとご飯を作るようになったのだ。

『A』事務所に住む女性陣の食事は全て石姫が作っている、なので、料理の腕は確かだった。

ムシャムシャと、ガツガツと食べる二匹を見ながら、石姫は、微かではあったが、穏やかな笑みを浮かべていた。

「…かわいいです、食べ方」

「ん?ああ、そうだな」

猫を見て、適当に相槌を打つ亮。

「………」
(井上だけじゃないんですけど…)

そう石姫は思いながら、ガッツく二匹の為に、冷蔵庫からミルクを取り出した。

石姫に新しくできた、なんとも穏やかな、昼下がりの日常風景であった…。

TO BE NEXT →『喧嘩祭〜VS八極拳〜』
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