『A』
 
たどり着いたのは、寂れた町にこれまたボロボロに寂れた道場。

豪華な中華料理なんて想像して、ワクワクしていた自分は、馬鹿だとしか言いようがない、そう貫は自責し、あからさまに肩を落とした。

日が落ちもう暗くなっていたので、道場兼劉の家で、二人は休むことになった。

道場の門下生用の大きなお風呂を頂いた後、夕飯をご馳走になる。

豪華…とは、言い難いが、出て来た夕飯は、とても貫の舌に合うものだった。 
夕食後、劉の御家族には遠慮して頂き、三人だけで集まって、話をすることにした。

当然、内容は依頼の最終確認だ。

「老師…お電話では、倒して欲しい奴がいるから来てくれ、とだけおっしゃっていましたが、そろそろ相手のことを伺ってもよろしいですか?」

「そうネ
…亮、君に倒して貰いたい相手の名は燕小龍(チェン シャオロン)、八極拳の使い手
かつて、私の弟子だった時もあった男ね」

「八極拳?
老師は八極拳もお使いになられるのですか?」

「いや、奴は私に化勁を習いに来たのだヨ」

「なるほど、老師の化勁は中国一ですからね」

「豪壮なる八極拳の攻撃力ニ、流麗な化勁の防御力が加われバ…」

「成る程、些か手強そうですね」

「………あの〜」

「なんだ、堀田
便所なら我慢しろ!」

「ち、違いますよ!
その、さっきから言ってる、カケイ…ですか?
それってなんなんです?」

「化勁知らないなんテ
本当に亮の弟子?」

「いえ、こいつは自分の弟子ではないんです…
ん…いいか堀田、教えてやるから耳かっぽじって聞けよ!」
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