VAGUE
一日
白いスーパーの袋を今日もぶら下げながらエスカレーターに乗る。

重い。なんとか減らせなかったんだろうか。よく考えたら白菜が安いからって、切れた珈琲を買う今日に買わなくてもよかったじゃないか。
別の日にすればよかった。珈琲だけははずせないから。

ふと前に立つ若い男のジーンズのポケットから飛び出たピンクのマスコットのぬいぐるみが目に入る。ちょうど目線の高さにあるそれは、よく見ると確かディズニーのキャラクターだ。携帯に付けているそれがポケットに入りきらず、ぶら下がってこちらを向いている。
一瞬男が振り返った。学生だろうか。茶色の長めの髪に、かなりぱっちりした目が幼い印象を残す。
慌てて目を反らした。男は気にする様子もなく、そのマスコットのついた携帯を取りメールを始めた。

その男の前には新婚であろう夫婦。前に女が手ぶらで立ち、後ろ側に立つ男の方に体を向け男の髪を撫でている。
夫だろう30代の男は、二袋分の食料を両手にぶら下げながら、嬉しそうに頭を撫でられている。あの男もあぁされながら飼い主気分なのだろう。
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