VAGUE
仕事帰りの重い足と重い荷物を持ちながら、ぼんやりとそれらを眺めていた。
今日は異様に眠い。

エスカレーターで地下から一階に運ばれ、我に返る。
腕に力を入れて再び歩きだす。


女は過酷だ。ヒールを履いて一日中爪先立ちして仕事をしている。男のように足の裏全体で歩けたらどんなに楽だろう。
足が痛い。足が痛い。足が痛い。オヤユビの感覚麻痺。カンカクマヒ。

重い。腕が痛い。ユビが痛い。荷物に誰かがぶつかる。鞄が肩に食い込む。
イタイ。イタイイタイイタイイタイ。


今日も帰りが遅いあの人は、おそらくどこかで食事を済ませてくるだろう。にも関わらず帰宅してから軽く何か作るように言うこともある。
だからあたしは作る。作ってほしいのだから作る。出来るだけ負担にならず、程よい量の、見た目に食べたくなるようなあたたかく美しい料理を。

あたしは飼い犬だ。飼われている。見えない首輪で繋がれている。
散歩を自由に許され、放し飼いさせられても、犬は必ず主人の元に戻る。自由の不自由。
自由は無法地帯で窮屈だ。このくらいがちょうど心地良い。何不自由ない暮らし。
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