VAGUE
「おねえさん、時間ありますか」
「ない」
「なくてもいい。一緒にいていいですか」
「なんで」

「…だめ?」
「なんで」
「いたい」

「いーよ。おいで」


商店街の途中の薬局を左に折れる。細い路地は、人通りが全くない。男の手を引き人気のない路地裏を歩く。

薄汚れた自販機の横でキスをした。

「ちゅうあんまり上手じゃないね」
「うるさいな」
「練習しなよ」
「うん。いっぱいしたい」

何度も繰り返す。途中でグレーのパーカーを着たおばさんが通りすぎたが、あたしがじぃっと見ていると気まずそうに足早に歩いていった。男は気付いていたんだろうか。

ひんやりしたコンクリートの壁が背中越しに体温を奪う。
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