VAGUE
裏路地には猫がたくさんいた。男越しに見える裏路地の侘しい景色。
湿度が、違うのだ。路地には人間がいない代わりに、商店街にはないじっとりした湿り気がある。

このこたちは首輪をしていないが、飼われているのだろうか。帰って眠る膝の上があるのだろうか。猫は犬と違って自由きままだという。帰りたい時に帰る。御主人様が、あたたかい家で猫を待つ。このこたちは、飼われながら御主人様を飼っている。

男の唇が首にある間、白い猫がじぃっとこちらを見ていた。

男の右手が肩から腰にまわった。
白く美しい猫は、ひょいっと塀を飛び降りた。微かに「チリン」と鳴る。鈴の音が水分を弾いて路地に香った。


「帰る」
「なーんで。もうちょっと」
「いや。散歩おわりだから帰る」
「散歩じゃないじゃん、なにいってんの?つーかここまで誘っといてずるいしょ」

下唇がなんだか痛い。腕が痛い。こいつの掴む力が強い。痛い。イタイイタイイタイ。
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