恋愛モラトリアム~夢見る乙女のオフィスラブ~

「私、悔しいです」

 江藤さんはガックリしながら呟いた。

 寄り掛かった化粧室の鏡が曇る。

「何でも知ってる私が、どうして何も知らない鴇田さんに負けなきゃいけないの?」

 何でも知ってるって……。

 まさか汚い部屋やエロDVDの場所までは知るまい。

 何も知らないなんて失礼ね。

 付き合ってたんだからあなたよりは知ってるっつーの。

 この話は他の女子社員が入って来たことによってお開きになった。

 女子トイレに呼び出されるなんて、

 高校生以来だった。

「あー、怖かった」

 一年後輩と言えど、先輩の威厳なんてまるでない私は

 平手打ちをかまされたり水浸しにされなくてホッとしながら管理課に戻った。

< 214 / 280 >

この作品をシェア

pagetop