執事と共に賭け事を。
「この船のオーナーの一人、だそうですね」

「ええ、よくしてもらったわ」

「……そうですか」


春樹は、それ以上何も言わず恵理夜の薬を用意した。


「……熱は、ないようですね」


かろうじて、薬だけ口にする恵理夜の額を抑えながら言った。


「気持悪い……」


ひどく弱った恵理夜の声。

春樹は、ただ優しく恵理夜の額を撫でることしか出来なかった。


「何か、飲み物でも」

「お茶が飲みたい……」


春樹は、フロントへ電話を繋ごうとしたが、やめた。


「ジンジャーティーをお入れしましょう。船酔いに利くそうです。荷物はスイートルームへ運んでいただいたので、少々席を外しますよ」


恵理夜は、答える余裕もなく体を丸めた。


「すぐに戻ります」


春樹は、その髪を撫でると部屋の出口から出て行った。
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