超短編 『夢』 8
私は誰?
目が覚めた。

ずっと、長い間眠っていたような気がする。

しかし、ベッドでも無ければ、布団の上でも無かった。

ただ、台の様な石の上に寝かされていたようだ。
体にはボロ布が巻かれていただけだ。

特に寒いわけではなかったが、服も身につけていない。

ボロ布をまとい、起き上がろうとしたが、手足と脇腹に痛みを感じた。

が、見ようにも薄暗くてよく見えない。

洞窟の中のようだ。

入り口は塞がれていたが、隙間から光が漏れていたので、真っ暗ではなかった。

ふと、気がつくと昨日までの、いや起きる前の記憶がない。

自分の名前や仕事も分からない。
しかし、うっすらと覚えている事もあった。

それは自由な社会で暮らしていたらしい事だ。

たしか、ミンシュシュギとか言ったかもしれない。

そうだ、思い出した。

俺は街角て歌っていたんだ。
ストリート・シンガーだった。
愛の歌や、自由の叫びを歌っていた。

こうしてはいられない。

また、街角で愛を歌わなくては。

そういえば、髪の毛も髭も伸びているはずだ。

床屋に行く金も無かった。
とにかく歌っていたかったから。

俺は何かにつき動かされるように、愛を歌っていたんだっけ。



取りあえず、この洞窟を出よう。


入り口は大きな石のフタがしてあったが、全身で押すと少しづつ動いた。

陽の光が入ってくる。

眩しい。

ようやく外へ出ると、一人の女性が近付いてひざまづいた。

「主よ。わが主よ。奇跡が起こりました」

その時、はっきりと意識した。

私は人々に愛を伝えなくてはならない。



が、ふと疑問が浮かんだ。

今が夢の中なのか、歌っていたのが夢なのか。

しかし、構わない。

人々に愛を語れるなら、駅前だろうが、荒野の真ん中だろうが、、、。
< 1 / 1 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

超短編 『当選』
東鋳明/著

総文字数/2,503

ファンタジー6ページ

表紙を見る
超短編 『ヒーロー』 2
東鋳明/著

総文字数/849

ファンタジー1ページ

表紙を見る
超短編 『ヒーロー』 1
東鋳明/著

総文字数/1,942

ファンタジー3ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop