【短】もう一度、君に
『しずく…』
もう届かないと思っていた言葉が届く事になんとも言えない感情が込み上げて気付けば名前を呼んでいる自分がいた。
「…ごめんなさい、私、あなたが分からない。
それに、ここがどこなのかも分からない」
不安気に紡がれた声に自然と手のひらを握りしめている自分がいた。
雫は何も分からない、どうして良いかも分からないこの場所でずっと一人ぼっちで居たんだと思うと苦しくてどうしようもない気持ちに襲われた。
俺がここに居てやれる時間は限られてる。
たとえ雫が、俺の事を覚えていないにしても俺が雫を助け出すんだ。
もう一度自分に言い聞かせるように心の中で呟いてから、俺は右手を差し出した。
『…俺は、誠。君の事を助けに来たんだ』