淡雪恋話
1.「私」と「彼」と「彼女」
物語を紡ごう。
彼と彼女の心を記そう。風に舞う名残雪のように、淡く切ない二人の物語を。
時を紡ごう。
彼と彼女が歩いた幸せな時間を。短かったけれど、共に歩いた幸せな時を。
名残雪が舞う。
一本の桜の木の下で、男の子が座り込んでいた。顔を見詰めると、やはり涙を流していた。
失う事を、私達は考えていなかったのかもしれない。
気づいた時には既に遅くて……。
だから彼は、涙を流す以外に方法がなかったのだろうと思う。
「五月……」
彼が呟く彼女の名前。
その言葉は名残雪と共に、風で空に舞い上がっていった。
私はただ、彼の悲しみと愛情が、彼女に届く事を祈った。