淡雪恋話
「……みいちゃん」
「あ、大丈夫ですか? 五月ちゃん……」
「私、行かなきゃ……」
行かなきゃ……って何処に? 今は安静にしておかなければ、立ち上がる事すら出来ないのに――
「待っているもん、隆志が…桜の木の下で…」
クリスマス・イヴなのは分かっているけど……。こんな体調でこんな寒い中外を出歩くなんて無茶苦茶だよ!
「五月ちゃん、気持ちは分かるけれど、そんなの無茶ですよ……」
「先生……もう私は長くないんですよね? 話は聞こえていましたから、もう自由にさせて下さい……。私は隆志の傍にいたい……もう今はそれだけ、それだけでいいんです……」
先生はこめかみを強く押さえると、五月ちゃんにこう言った。
「ご両親も自由にさせてあげて下さいと言っていたよ。だから私には君を止める権利はない。だが、最後まで諦めない事も必要なんじゃないのか?」
「理屈で分かっていても、私はもう時間がないんです。それを納得なんて出来ない……。私が生きていられる間に、隆志に何か残してあげたい。せめて先に死んでしまう罪の償いの為にも……」
罪なんかない! ただ背負わされて苦しめられるだけの運命なんかに、罪なんか存在していない!
心の中で私はただ、ただ運命を司る者を恨む事しか出来ない。そんな自分の不甲斐なさに、本当に怒りを感じる。