淡雪恋話
「お、やっと来たな、五月……」
信じられない声が、私と五月ちゃんの背後から聞こえた。
とても優しくて、そして暖かさに満ち溢れた声だった。
信じられない、という表情で、五月ちゃんは後ろへ振り向いた。
そこには、ホットの缶コーヒーとホットのウーロン茶を持った隆志君が、優しく笑っていた。
「隆志、ど、どうして……」
五月ちゃんにしてみたら信じられない出来事だろう。だって、この雪が舞う寒さの中で、約束した時間から四時間も経過した中で、それでも隆志君は、全く五月ちゃんが来ないという事を、考えてもいなかったのだから。
「五月は約束、絶対に守るからな。遅いのには何か理由があるんだろうと思ってさ。だから待っていたんだよ。別に特別な事……何かしたのか? 俺……」
きょとんとしている隆志君。
私は隆志君の傍に、ゆっくりと歩いていく。
そして、きょとんとしている隆志君の頬を、思いっ切り引っ叩いた。
「あなたは! 五月ちゃんの苦しみとか辛さとか! 全然考えていない! 何故気付かないの?! 痩せて、やつれて、それを必死になって隠そうとしている五月ちゃんに!」
「……知っているよ、五月の病気の事なら。もう、長くない事も、今日、病院に運ばれた事も……」
項垂れた隆志君は、そう呟いた。
五月ちゃんの顔が強張る。一番知られたくない事を、一番知られたくない大切な人に知られてしまっていた。しかもその口調は最近知った風じゃない。
初めから知っていた、そんな口調だった。
「五月のお母さんが話してくれた……「もう長くない。でも、五月を最期まで見守ってあげてくれ」って……」
私の中で疑問が浮かんだ。それはもしかして、義務感として付き合っていた、とでも言うのだろうか?
それじゃあ、あんまりにも五月ちゃんが可哀想だ。そんな感覚で付き合われるくらいなら、私ならいっそ振られた方が何倍も気が楽だ。