淡雪恋話
「……私は……重荷だったの……?」
五月ちゃんの震えるような声。掠れるような声。否定してほしい気持ち。でも肯定された方がもしかしたら楽なのかもしれない。そんなアンビバレンスな感情。
「俺は五月が大好きだよ。俺が五月と一緒にいる事に理由なんか要らない。俺に必要なのは五月だけなんだ。それじゃあダメなのか?」
全てを知っている。
もう終わりが近い事を、ちゃんと理解している。
でもそれでも、隆志君は笑っていた。
覚悟が必要だったはずだ。自分の好きな女の子の死に目を看取ってくれ、そう彼女の母親に頼まれたとしても、それを彼は理由としなかった。
ただ、必要なのは五月ちゃんだけ――
笑顔の隆志君は、そう断言した。
「隆志……」
涙目の五月ちゃんが、隆志君の傍に一歩ずつ、近づいていく。
病院を出た頃には、私には二人の距離が無限に見えた。でも本当は違った。五月ちゃんが歩いてきた、一歩ずつの道程は、確実に隆志君の元に近づいていた。
隆志君は、最後の一歩を歩き終え、崩れ落ちそうになる五月ちゃんを、しっかりと抱き締めた。
隆志君は五月ちゃんの死から、目を逸らす事はなかった。