淡雪恋話


 名残雪は舞う。
 雪が消えてしまったら、きっと彼女の記憶も薄れてしまうから、忘れないように、忘れないように、名残雪は舞う。
 隆志君は私が書いた物語を静かに読み始めた。




 忘れる事はきっとない――
 彼女の記憶は、私の中で、そして隆志君の中で、ずっと想いとして残るだろうから――


 読み終わった隆志君は、涙を拭うと小さく笑って、こう言った。


「そうだよな、俺がずっと泣いているの……お前は望まないよな、五月……」
 彼が空にかざした左手の薬指のシルバーリング。隆志君の視線の先には、名残雪とその誓いの指輪が光っていた。


 私達は桜の木の下で、名残雪を見詰めていた。
 いつまでも、いつまでも――


――運命の糸を紡ぐ者の意図は、その者にしか分からない。だが全てを内包して愛情は運命を紡ぐ――


END
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