淡雪恋話
「……私が死んだら、隆志の事、お願いしていい?」
――! な、何を言っているの?!
「五月ちゃん、何を言っているのですか?! 突然……」
五月ちゃんは、信じられないほど儚い笑顔を私に向ける。
私は見た。
彼女の綺麗な栗色の瞳は、涙で濡れているのを。
「……私、末期の癌なの」
――!
「夏休みの検査入院の時に分かったの……。持って半年……早ければ三ヶ月……だって」
そう言って、五月ちゃんは涙目のまま私ににっこりと笑う。
絶句している私に、五月ちゃんは言葉を続ける。
「みいちゃんの作文を読んだ時、私ね、凄く感動したの。そしてこの人になら、隆志を任せてもいいって思った。これは私の我侭なのは分かっているの。でも、何も知らない隆志には、知られたくない。そして他の誰にも隆志を取られたくない。……出来れば、私が認める事が出来た女の子に、後を託したいから……」
彼女の視線は私から隆志君に向いた。
彼女の視線は悲しげで、でもとても真剣で――
少なくとも「その末期癌という事実は嘘ではない」と私に納得させるには十分な証だった。
正直困惑してしまう。こんな事、私に言われても困るし、突然隆志君を好きになれるはずもない。
安請け合いは出来ない――
でも――
「正直、隆志君を好きになれって言われても困ります。だから、私は一緒にいます。五月ちゃんと隆志君と……」
これが私の精一杯だった。
五月ちゃんは小さく笑って、「うん」と頷いた。
――紡がれる物語が、必ずハッピーエンドなるとは限らない――