やさしい手のひら・前編【完結】
「帰るぞ」

「待ってぇ」

「どっか寄ってく?」

「プリン食べたい」

「じゃあ、コンビニ寄って、うち行こう」

「うん」

凌の家の近くのコンビニに寄ることにした

下校時間のため、コンビニの中は中学生や高校生がいっぱいだった

「ちょっと見て見て!Blacksのこと載ってる」

コンビニに入った瞬間、中学生の会話が耳に聞こえてきた

「すごい決まったんだね。絶対CD買う!」

私は聞こえない振りをし、横を通り過ぎた

そして、プリンを手に取り、かごに入れた。さっきの話が気になったが、凌もいるし私はそのままレジへと歩いた

「俺が買うわ」

そう言って、私の手からかごを取りタバコと一緒にプリンを買ってくれた

「ありがとう」

凌は微笑み私の手を握り、外へ出て凌の家へ向った

さっきの話を凌は聞いていたのか知らないけど、健太のことは一切触れなかった

いつものように凌の家へ上がり、玄関で凌のお母さんとしゃべり、2階へと行った

凌は部屋に入りすぐテレビを付けた

「はい、プリン」

凌からプリンを受け取り、蓋を開けスプーンですくった時、

「映画の主題歌が決まったBlacksですが」

とテレビから聞こえてきた

私は、ハッと思いテレビを見ると健太達が写真で映っていた。みんな大人っぽくなっていた

少し痩せた

健太は顔がほっそりしていて、芸能人という感じがしていた。届かない人になったんだ、と改めて思ってしまった

この映画はかなりの力作で有名な人達がたくさん出演し、期待の映画らしく、デビュー作の曲を主題歌に使うことに決まったという話だった

私はすぐに目線をプリンに移し口へ運ぼうと思った時

「川崎さん達、芸能人になったんだな」

凌がテレビを見ながら言った。ついこの前までここにいたBlacksがテレビに映っていることがまだ信じられなかった

「これで売れたら、その先も売れるだろうな」

凌はタバコを吸いながら、じっとテレビを見ていた

「すごいよね」

「すげぇわ」

それ以上、健太達の話はしなかった

< 367 / 387 >

この作品をシェア

pagetop