やさしい手のひら・前編【完結】
私は先ほど本屋へ行き、音楽雑誌を買ってきた

買うか買わないかその場で悩んだ。でもどうしても健太を人目見たくて買ってきてしまった

開くまで雑誌の表紙をずっと眺めていた

見ない方がいいのかもしれないというのと、見たいというのが交差している

開きたいのに開けない

見てしまった後に後悔するかもしれない。だったら見ない方が・・・

でもやっぱり見たい。そう思って一枚ずつ捲っていった

「健太・・・」

優しい笑顔の健太が目に入った

その笑顔を見るだけで私はドキドキする。そして涙が私の頬を伝う

「健太・・・」

髪型も変わっていて、やっぱり少し痩せたみたいだった

でもあの笑顔は何ひとつ変わっていない

「指輪・・・」

私とお揃いの指輪が健太の右手に付いていた。それを見ただけで胸が痛くなり、次から次と涙が流れた

「会いたいよ・・・健太ぁ」

もう外されていると思っていた指輪がまだ健太の右手に付いていたことが嬉しかった。でも嬉しかったけど悲しかった。健太は私の思いを知らないから・・・

指輪が付いているからと言って、私は連絡をすることも出来なくて、会いに行くことも出来ない

ただ、遠くから見ていることしか出来ないんだ

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