極悪彼氏
小学校高学年の時、海外に行ったっきりオヤジが2ヶ月戻らなかった。



毎日帰りを待つのに疲れたと感じた時にはすでに眠れなくて。



眠れないイライラを周りにぶつけるようになっていった。



うちが普通の家とは違うと気づいたのはゲンジと仲良くなった頃。



悪ガキのゲンジを本気で叱る母親。



なのに夜には暖かいメシが出てくる。



『おやすみ』を言って明かりのつく部屋から暗闇で眠る習慣。



『いってらっしゃい』で学校に向かうこと。



『ただいま』と迎えてくれる優しい笑顔。



俺にはひとつもないものだった。



その時、自分がいらない人間なんだということを思い知り、自傷行為のようにケンカに明け暮れた。



そして想羽さんに出会ったんだ。



あの人は俺に普通を教えてくれた。



想羽さんが俺を弟だと言ってくれた。



それは『家族』を知らない俺には大きすぎる言葉だったんだ…。



「顔洗ってこいよ」

「でも…芸能人がいるよ」

「幽霊だろ。幻覚、マボロシ」



これが夢羽が知りたい事実。



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