観覧車【短編】
誰かに彼のことを
話そうなんて
思ったことはない。
そこまで多く
彼に会うわけではなかったし、
意図的に会おうと
試みたわけでもなかった。
気付くと出会っていて
彼だと気付いて
そして瞬きをする瞬間
彼は雑踏に紛れてく
偶然の出会いの積み重ねは
年を経るごとに
彼への淡い感情を
私の中に忍ばせた。
半年に一度。
へたすれば数年に一度。
だからこそ
彼は私の中で唯一の特別だった。
彼が私を知っているかどうかは
分からない。
いつも見つめるのは
すれ違う彼の横顔で
瞳が重なることもなかったから。
――そして今日。