観覧車【短編】
背景に溶けるかのように
佇むその姿は
ずっと昔から
そこに在ったようにさえ思える。
緊張で
小さく息をついた。
彼は観覧車を見上げていた。
私と同じように、
私から空気三つ分ほど離れて。
遠くトンビの声が
合図のように鳴ったあとで
彼は私を振り向いた。
初めて視線が交錯する。
端正な顔立ち、
高い背丈。
すべてが彼だった。
時間が止まったみたいに
見つめ合ったあとで
小さく彼は口を開いた。
「お久しぶりです」
たったそれだけで
私の心に灯がともった。
「……私を知ってたんですか」
胸の鼓動が速くなる。
あなたは私のことなんて知らないと、何度心に言い聞かせたろう。