宵闇の世界 -world of twilight-
「捺瀬…いいの?」

「どうしてですか?」

「いや、なんでもない。おやすみ」


どうしようもない感情に囚われて、捺瀬に聞いたものの、捺瀬は不思議そうに答えるばかり。
辰樹は逃げるように捺瀬に別れを告げ、部屋へと入った。
先ほど見た光景と聞いた音から、想像できるのは1つしかなかった。
訳のわからない感情を閉じ込めるように、辰樹はベッドへと倒れこんだ。


「スラストは捺瀬とじゃないのか?それとも意味があるのか?」


辰樹の問いかけは答えが返ってくることのなく、部屋の闇へと消えた。
静かな部屋は、虫の声すら聞こえてこない。
しかし、辰樹の耳からは先ほどの息遣いの音が、離れて消えなかった。
耳を押さえて、首を振ってしまいたかった。
けれどそうしたところで消えるわけもない。


「そういえば」


辰樹は思い出したように、ベッドから起き上がった。
日本刀の手入れをしてなかったことを思い出したのだ。
捺瀬がいつの間にか荷物を運んでくれていたようで、部屋の隅にカバンと愛用の日本刀があった。
カバンから日本刀の手いるの道具をだした。
和紙を口に銜え、刀を鞘からゆっくりと抜いた。
とりあえず刃こぼれはしていないようだった。
手早く手入れをし、刀を鞘へと戻す。


「よかった。刃こぼれしなくて」


辰樹は鞘にしまった刀を見つめた。
しかし、あの状態が続けば確実に刃こぼれしていた。
いや、その前に命の危険すらあったかもしれない。


「スラストと麗藍に感謝…か」


先ほど捺瀬が言っていた言葉を、今なら素直に受け入れられる。
スラスト、麗藍、捺瀬の関係も気になったが、信頼関係で結ばれているには違いない。
ベッドに横になれば、自然の匂いがした。
部屋に灯るサイドテーブルのランプを消すまもなく、辰樹は眠りに誘われまぶたを閉じた。
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