宵闇の世界 -world of twilight-
「捺瀬[なつせ]、強化頼んでもいい?」

「あ、麗藍いらっしゃいませ。いいですよ」

「ありがと」


麗藍は小さな小屋の庭にいた捺瀬に声をかけると、捺瀬は微笑んで麗藍を家の中へ招いた。
整理が行き届いた部屋は、どこかほっとする気がした。
捺瀬は麗藍の前に紅茶を置くと、麗藍の前の椅子へとかけた。


「いつものほうですよね?」

「そう、こっちの強化」

「そっちは大丈夫ですか?」

「対だから大丈夫よ。捺瀬の腕は確かだしね」


麗藍の言葉にふわりと捺瀬が微笑んだ。
麗藍は左耳の蒼いピアスをはすして、捺瀬に預けた。
捺瀬はそれを受け取ると、作業台へと移動した。
麗藍はただそれを、黙ってみていた。
カチャカチャという音と、時々聞こえてくる捺瀬の声が聞こえるだけだった。


「はい。終わりました」

「ありがとう。なんか予感がするからちょっと強化して欲しかったの」

「麗藍の予感は当たりますからね」


そんな話をしていると、勢いよく入り口のドアが開いた。


「ここにいたか、麗藍」

「スラスト、なんかあった?」

「時空のひずみができてる」

「…行くわ」

「私も行きます」


立ち上がる麗藍を見て、捺瀬も傍らに立て掛けてあった愛剣に手をかけた。


「だめだ」

「どうしてですか?スラスト!!」

「危ないから。捺瀬に何かあったら絶対にいやだから」

「自分の身は自分で守ります」


意志の強い瞳で、捺瀬は麗藍とスラストを見つめた。
麗藍もスラストも捺瀬を優しく見つめた。
スラストは愛しい者を見つめる瞳で。
麗藍は大切な者を見つめる瞳で。


「捺瀬にはもっと大切なことを頼みたいの」

「久しぶりの時空のひずみだ。なにかあってもおかしくはない」

「『時空の迷子』を保護してくるから、それを一時的に受け入れる用意をしてて」

「はい!!わかりました。二人とも気をつけてくださいね」

「ええ」

「いってくる」


スラストは捺瀬の頬に口付けをし、麗藍は捺瀬をそっと抱きしめ、一気に駆け抜けていった。
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