宵闇の世界 -world of twilight-
「ここ、どこなんだよ…日本じゃないよな?」


一人の少年が小さな丘の上で、呆然としたように呟いた。
彼の名は木原辰樹。
辰樹は自分の傍らにあった、代々受け継ぐ日本刀を手に持ち立ち上がった。
小さな丘を下れば、広大な森が広がっているのがここからでも見えた。
丘は少し続いて大きな樹があった。
その向こうには湖が広がっていた。
対岸はかなり遠く、霧ががっていてぼんやりとしか見えない。


「まじでどこなんだよ。ここ…さっきまで普通に商店街歩いてて…少し大きな地震があったから、しゃがみこんで目をつぶって…」


辰樹はさっきまでの自分の状況を思い出していた。
今手に持っている日本刀の所持許可証を、知り合いの骨董店から受け取った。
バスに乗るために商店街を歩いていたら、震度4くらいの地震が辰樹を襲った。
衝撃から身を守るために、その場にしゃがみこんで目をつぶった。
揺れ自体はそれほど長くなく、収まったのを感じた辰樹は目を開いた。
しかし、そこは先ほどの商店街ではなく、見知らぬ地に来てしまっていた。


「太陽が出てるのに、暖かさを感じない…気候的には春に近いよな…」


辰樹は冷静に分析を始めた。
こんなところは祖父譲りだと感じながら、周りを見渡した。
小さな丘には辰樹ただ一人だけ。
話を聞こうにもこれでは聞けるはずもなく。


「あの森を抜けてみれば何かわかるかもしれない」


丘を下ったところにある森を見据え、辰樹は呟いた。
遭難する危険はとても高い。
しかし、こうしていても解決策は何もない。


「…行くか」


決意したように、足元にあった学生かばんを手に取った。


「ククク。見つけたぞ…異世界からきた人間…」


低く掠れた声に辰樹は視線を上げた。
そこには黒いローブを着た男が、徐々にこちらに近づいてきていた。


【こいつ…ヤバイ】


辰樹は本能的にそう感じ、とっさに日本刀を引き抜いた。
それを見た男は、厭らしく笑った。
まるで滑稽だといわんばかりに。
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