古城のカラス


バーレンは、一瞬胸に込み上げる言いようの無い感情を抑え、幼い彼の目線に合わせ、その細い肩を掴んだ。


「王子」


いつも優しく甘い彼の声色が急に低く真剣な物になったので、シアンはいくらか怯えたらしく一歩退いて息をのんだ。



「…………」


バーレンは口を開かない。


その沈黙が余計に怖くなって、シアンは俯いて肩を掴む手を振り払った。



「王子、あまり軽率なことを申されぬようご注意申し上げます」


「……」


「ご自身の言ったことがおわかりですか。
貴方はここが戦火に焼かれることを想像したことが御座いますか。

実際の戦場を見たことが御座いますか」



「う、煩い!!」



続きの言葉に耳を塞いで、シアンは駆けだした。


最後まで聞けば泣いてしまうだろう。




『自分の家が焼かれるというのは、どういう気分だ』



その先に、舌に乗る筈だった言葉を何度も頭の中で復唱して、軽率だなんて否定する。


僕には想像できないことだ。


失って惜しい命なんて無いから、一度でもそんな哀しみを味わってみたいものだ。



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