古城のカラス


前も見ないで駆けだしたシアンは、石壁の門を曲がったところで何か誰かにぶつかった。


「わっ!」


頭をぶつけ、反動でシアンは思い切り跳ね飛ばされる。


石で殴られたかのようにガンガンと痛む額に手をあてて、「誰だ」と怒鳴ってやろうと相手を見上げて、肩がビクリと震えた。


父であった。



「シアン。
何処へ行こうとしました」


石像のごとくピクリともせず少年を見下ろす王。


シアンはすぐに立ち上がって背筋を正し、「おはようございます」と頭を下げた。


「何処へ行こうとしました」


「…部屋へ」


「そうですか」



王はそれだけ聞くとすぐにシアンを視線から外し、彼を避けて自分が行くべき回廊に戻った。


ああ、振り向きもしなければ言葉もない。



立ちつくすシアンの背中の方で、父とバーレンが話す声がした。



「バーレン」


「おはようございます、閣下」


「おはよう。
シアンをよろしく頼みましたよ」


「は」



シアンはその会話を聞いて、堪らず両手の拳をきつく結んだ。


舌唇を噛んで、悔しさに耐えしのぶ。


その後も父とバーレンの会話は続いているが、シアンは耳を塞いで自室への道を行った。



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