古城のカラス


死んだ母からの贈り物。


ただ一つ、母から託された物らしいのだが、シアンは母の顔を知らなければ声も聞いたことが無いし母と呼んだこともない。


シアンが生まれた頃には、すでに城から出ていたからだ。



箱を傾ければころんと音がした。


軽い乾いた音を何度も繰り返して、その後手で弄ぶ。



母とはどういう物ですか。


愚問を父に問いかけると、しかし王は応えてくれなかった。


さあね、それだけではぐらかして。


石を見ながら彼が思い出すのは、村で見かける睦まじげに歩く親子の姿、もしくは大人数で駆け巡る子供たちの姿、誰かと話す誰かであり、口を大きく開いて豪快に笑う民である。



脆い廃れた布を着て、でも幸せそうで。


きっとバーレンもその一員だったのだろう。


王ではない父とはどういうものだ。


臣下がいないとはどういうものだ。



それは純粋な王子の好奇心から湧くものであり、でも、素直に尋ねることがいけないことという自覚があった。


実年齢よりもずっと大人びた彼なりの判断であろう。


死した人のことを尋ねるのも憚られた。


でもそれが余計に頭に来て。


悶々と堂々巡りを繰り返す彼の正体不明な空しさは、もう何年も小さな胸に抱かれている。



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