古城のカラス
「セラ姉さんには、お父さんとお母さんがいるでしょう」
彼女は頷いた。
生まれた頃から顔も知らない両親だが、自分が『産み落とされた』生き物である以上、製造元があるのは当然のこと。
「でも僕にはそんなのいません」
「でも、ルーク様を」
「そう呼んでいるだけで、きっと姉さんたちの『お父さん』ってのがどんな存在かを考えれば、きっとあの人は『父さん』じゃありません。
正確にはご主人様‹マスター›。
僕は一介の使い魔だ」
その動きはまるで糸で吊られた操り人形。
手首を不意に浮かして肩の高さまで持ち上げると、火の消えた暖炉をゆらりと指さした。
「モエロ」
一言の後、くべられた薪が突如火を噴き、暖炉の中に真っ赤な灯りが灯った。
「魔術師…」
「違います。
僕は存在そのものが炎、ほら」
微笑んで彼は自分が着る白いシャツの袖をまくりあげた。
浅黒く、細いその腕が薪のように燃え上がり、腕の原型を留めずして膨れ上がった。
ね、と、念押しするかのように彼女にそれを見せつけると、驚いたセラの表情に満足したか、やがて元の腕に戻した。
肌には火傷の跡一つ無い。