古城のカラス
「人が人たる所以は幾つかあるが、神と呼ばれる存在が人間に求める物が一つある」
青年は人差し指をピンとたて、教授するかのような口調で説き始めた。
「彼は『両親がいること』を人たる定義としたようだが、それは少し語弊があってね、実際彼に両親はいる。
その身体が火でできているのなら、母は炎、そして炎を燃やす空気こそが彼の父だ」
立ち上がって戻って来る少年を、面白そうに眺めながら話を紡いだ。
ホムラは再度青年に殴りかかる様子は無い。
「彼の主人は人ではない、元は人として生まれてきたのだろうが、しかし神が求める『ある物』を持たなかったために、彼は囚人として人たる資格を剥奪されここに幽閉されている」
「幽閉!?」
「そう、彼の意志ではここから自由に出入りはできない、来客は自由だがね」
だから俺は門が開かなくても此処に居る、と青年は付け足した。
「そんなことを教えてどうする気ですか、父さんを助けるつもりなんて無いくせに」
口調荒荒しくホムラがそう吐き捨てた。
青年の視線は次いでホムラに定められ、例によって意地悪く唇を吊る。
「助けたいさ、同じ身分として放ってはおけない」
「は」
「偽善なのは知っているが、君だって主人を助けたいだろう」
「あなたの手を借りずとも」
「そうやって何百年過ぎた。
見ろ、指も折れなくなったぞ」
五本の指をそれぞれくねらせて青年は可笑しそうに言った。