古城のカラス
「お嬢さんは如何。
自分を助けた御人に恩返しがしたいとは思わないか」
その目は明らかにからかっていることが明白だった。
冷やかしの対象としては相応しくない話題である。
「…………」
「まあ、突如そんなことを言われても即答はできまい、しかし現状を見てルークをここから解放してやれるのは君しかいない。
何故なら、彼をつなぐ枷は人外に切れない鎖だからだ」
言いながら、青年はスーツのジャケット内側をまさぐり、やがて細い何かを取りだした。
セラの眼前に突き出されたそれは、真っ白い鞘に収まった短剣である。
「美女と野獣の話を、知っているか」
セラは頸を横に振った。
物語など、ナーサリーライムの短い詩しか知らない。
「野獣に変えられた王子を町娘が救うフランスの童話だ、書庫に英語訳のがあるから、今度見せてもらうといい」
「……」
「ルークを助けたいと思うならこの剣で枷を切ると良い。
もしくは、助けられたことを恨むならば自らの頸を掻き切るのもまたアリだ、セラ・レナード」
手渡された短剣の重みと冷たさを実感して、それから自分の名をフルネームで呼ばれたことに大いに驚き、セラは青年を見上げた。
何故。
そう問いたいが口から言葉が出てこない。