古城のカラス


声が出てこない彼女を確認して、アイヴァンスと名乗った青年はくるりと踵を返して扉へと向かった。


それを、ホムラもセラも、呼びとめようとはしない。



「お父上は大変立派な人格者だった」



振り向かずに、アイヴァンスはそう呟いて足をとめた。



「だが彼は、それ故に『魔法使い』ではなく『魔術師』の道を選んでしまった、ただそれだけの落ち度だ」



彼はゆっくりと微笑み、穏やかな色をした瞳でセラを見詰めた。


見つめ返す彼女の腹に沸き起こっているのは混じりけのある殺意。


復讐、そう復讐だ。



この短剣は、今、この男を刺すために渡されたものじゃないのか。






「君は魔法使いでいろ。

その方が、女の子として喜ばしい」





そんな下らない冗談を残し、アイヴァンスは部屋を去った。




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