古城のカラス
「あの餓鬼、彼女になにか渡したか」
「短剣を一本」
「泣いているうちに取りあげておけ、鎖を切られても殺されても死なれても困る」
「トリプルですか…」
ホムラはしゅんと頭を下げた。
確かに殺されてはいけないし、死んで欲しくない、しかし鎖を断ち切って欲しいとは思うのだ。
あの青年の助力というのが気に入らないものの、しかし主人を助けるのは使い魔の義務ではなかろうか。
こうなればセラを一度でも説得して、ルークの鎖を切ってもらえば…。
そう悶々とホムラは試案する。
白い家具と壁に囲まれた応接間のソファに寛ぐその主人は、右手の袖をまくってホムラに見せるように持ち上げた。
手首に錠が、そして服の内部まで細い鎖がいくつも連なっている。
「俺はこのままでいい」
ルークは呟いた。
「ずっと、このまま、此処に居ればいいんだ」
ホムラの目論見は無意味である。
だって主人がそれを望まない。
未だ盲目的になれないホムラは、アイヴァンスの犬っころよりもずっと人間的で優しいのだ。