古城のカラス
たまらずセラは水の中に入った。
張りついた泥が融けだし、擦れた傷がしみて痛みを増す。
そんな下らないことは構わずに、セラは浅い泉の真ん中までずんずんと進む。
水面に浮かぶ、月。
風もないのに波を打つ水面にくっきり映った月を見つめ、セラは奥歯を噛み締めた。
ぱしゃり。
月に手を伸ばして水を乱した。
当然、幻影に近い水面の月は掴めもしなければ壊せもしない。
また優雅に蒼に浮かぶだけで。
ぱしゃり。
ぱしゃり。
何度か同じことを繰り返してみても、結果はまったく変わらない。
手に届く物ですら触れられないなんて。
自嘲気味にセラは笑い始めた。