古城のカラス
「今日はずいぶんち饒舌なんだな」
「……っ」
肩に乗せられた掌の重みに、忍ぶ威圧に耐えられずホムラは振り返った。
「すみません、つい!」
「つい、ね。
それがあるからお前が羨ましい」
「はい?」
「いや」
気配無く現れたルークは、ちっとも憤慨した様子も無しに相変わらずの無表情で室内を見回した。
雲が空を覆っているから、自然と建物の中も暗い。
閲覧室ですよ、と案内された白い部屋のテーブルに積み重ねられた本の山を見つけて、次に彼は呆れた顔をした。
「絵本に童話…うわ、グリムばかりじゃないか、こんなもの読ませるか普通」
「セラ姉さん、本を読んだことがないって聞いたものですから」
「ほお」
会話をしながら手に取ったのはタイトル『美女と野獣』である。
ふと、読んでみろとアドバイスした卿の顔が浮かんだ。
ルークとそっくりの、黒髪赤眼の青年を。