古城のカラス
長い時間をかけて人が古代から繋いで来た物。
もはや喜怒哀楽の四文字では足りないほど、その花には名前がある。
少女はその花の名前を知らない。
または知りたくないと必死で耳を塞ぎ目を閉ざしてきた。
「おいで」
差しのべられた手を無邪気に握った。
握れば握り返された。
少し加減を忘れた圧力に、その名前は『痛み』ではないことに薄々気づいていた。
花の名前は簡単に知れることじゃない。
名前を知るということは、自分を理解するということだ。
欲しくて持ち合わせた代物じゃない。
でも人である限り捨てられない。
「ごめんね」
「…どうしてあやまるの?」
「ごめんね、こんな父さんで」
その花の名前が、『憎しみ』であったなら、どんなに気が楽だったでしょう。