古城のカラス
「………どうしてあんなことを言うんです」
ホムラは少し憤慨気味に、寝室のソファに踏ん反り返る屋敷の主に訊ねた。
父親を助けたいか、と訊かれて、セラはすぐに返答はできないでいた。
堪らず彼女は書庫を飛び出して、きっと無意識だったのだろうが、一人で上階に戻って行った。
「愚問だな。
人をからかいたがるのは遺伝者‹レコーダー›に共通する癖、性だ」
「…酷すぎます、そんな性」
「そうか?
ずいぶん良心的なことを言ったと思っているよ」
『憎みたいけれど憎めない、むしろ愛情さえも感じてしまっている自分が許せない』。
彼女は母の恨み言を忘れてはいない。
それを愛情と名付けるのは母への裏切りである。
憎むことも愛することもそう難しいことではない。
問題はその対象が宜しいか宜しくないか。
愛する者を憎むのは簡単だ。
でも憎む者を愛するのは困難極まりないことだ。
「からかいじゃ済まされませんよ」
「そうだな、本気にしたら、本を盗みに書庫へ足を運ぶだろう」
「そうなったらどうするんです」
「殺せ」
そうしてまた本が増える。
ルークはまるで殺したがっているようだ。