古城のカラス
「また来るよ」
少年は泉の勇者に向かってそう言った。
誓うように、それはある意味宣言であったかもしれない。
「帰らなきゃ、父上がきっと心配している」
宮へ着いて、自分が戻った時のことを想像すると足がすくんだ。
きっと、たぶん、怒られるのは間違いないんだろうけれど、それがたまらなく怖いことと、でも心配してくれていたという安心感にひどく憧れる。
…もしかしたら、もう父上は忘れているかもしれない、こんな息子のことなんて。
少年は俯いた。
雨に濡れたクロークが背中で重さを誇りながら水を浸している。
きっとこのままでは風邪をひいてしまうであろう。
少年は泉にくるりと背を向けて、陽光が差して見慣れた風景を映し、変えるべき小道をきちんと示した。
「ばいばい」
少年が駆けだすと、鳥はやっぱり肩から離れ、上空へ垂直に飛んでしまった。
少しだけ、ついてきてくれることを期待したのが悲しかった。