古城のカラス
「彼はどうしています」
「大人しくなさっておりますよ。
騒ぐ様子も御座いませんし、そろそろお許し下さってはいけませんか」
「駄目です。
三日三晩という約束ですから」
賢者と称えられた王は、まるで話題には無関心を装って視線をずっと向こうへ投げた。
形式を果たして訊ねただけ。
約束を破って一晩帰ってこなかった息子を、王は地下牢のずっと深くに閉じ込めた。
聞き分けの良い子なのは知っていたから、特に心配などしていない。
民には優しく厳格で慕われた王ではあるが、こと親族には厳しいを超えて冷たい印象がある。
それを以て彼なのであろうが、息子を不憫に思う家臣は少なくない。
バーレンもまたその一人。
若くして王家に仕えている彼は、街に残してきた幼い弟を思い出し、よくよく王子に気を掛けてきた。
「王子。
御機嫌は如何です」
暗い暗い地下牢、松明が無ければ一寸先も見えぬであろう闇の中で、格子の向こうで蹲る子供に声をかけた。
「…御機嫌もなにもあるか。
何の用だ」
とても歳相応の話し方とは思えぬ声の低さ。
いつだって王子はバーレンを威嚇する。
「…お腹は空きませんか」
「動けもしないのに空くものか。
僕に気を遣うくらいなら父上の機嫌でもとっていろ」
少しだけ顔を上げて此方を見た。
薄い灰色の瞳が僅かばかりに潤んでいる。
バーレンは苦笑を浮かべて格子の前に座った。