古城のカラス
「相変わらず、お父上は厳しいですね」
格子越しにまた膝に顔を埋めた、綺麗な金髪を眺めながら、バーレンはどうにか彼を慰めようと試みる。
一昨日の雨の所為で少年が家に帰る道程を失ってしまった、そんなことは誰もが百も承知なのだろうが、厳格な王からすれば『雨に捕まった』時点で失態である。
良いわけは許されぬ。
妥協などすれば彼は王子の身に相応しくは無いのだ。
「心得ている」
「…シアン様はお強いのですね。
俺の弟なんて、こんなところに三日も閉じ込められれば怖くて怖くて泣き叫んでしまうことでしょう」
シアンはふっと顔を上げた。
自動的にバーレンと眼が合って、しかしすぐに逸らされる。
「弟がいるのか」
「ええ、城から東の街に」
「ふーん」
「シアン様と同じくらいの歳なんです。
ああ、でも、シアン様とは大違いで泣き虫で、喧嘩が弱くて」
「喧嘩が弱いのがなんだ」
シアンはすこし喰いかかって、膝の上で拳をぎゅっと握った。
バーレンは剣の修行に励む彼の姿を、時々木の棒を振りまわして駆けまわる自分の弟と重ねていた。
棒と剣では大違いである。
「弱くたって、立派な賢者はいる」
「はあ、そうですね」
バーレンは少し喋りすぎたのを反省して、格子に背中を向け直した。