古城のカラス
「お前、東の出身なのか」
背中から来る声はずいぶん不機嫌のようだった。
「ええ、ミシュランです」
「…可哀そうに」
「え?」
バーレンは再度振り向いた。
今度はしっかりと、子供らしくない灰色の瞳が、バーレンのことをキッと見詰めていた。
「ミシュランはもうすぐ堕ちる」
少年は呟いた。
「川のすぐ近くまでサクソン軍が来ているんだ。
きっともうすぐ川を渡ってこの国にも攻めてくると父上が言っていた」
「………」
「この国も、もうすぐ終わる」
「王子」
バーレンは余計に彼が不憫に思えた。
子供なら『絶対に父上が守ってくれる』と言う筈で、その目に希望が宿る。
それがこの子には無い。
父の前、というのも、この国の中では彼は夢を見れないのだ。
「大丈夫ですよ。
お父上はサクソン軍に負けない戦略家ですから」
「ふん」
王子はまたそっぽを向いた。