古城のカラス


国はもう数十年もの間戦争続きである。


西の果てのこの島には数百という国が寄り集まっており、くっついたり離れたりを繰り返している。


それに新たな参戦勢力が加わったのは最近である。


大陸から異民族が渡り、この島の統一を目指して先住民を追いやっているのだ。


シアンの父が制するこの国も、追いやられて東に逃げ延びた国の一つである。




「…そろそろですね」



高い塔を城と呼んだ。


砦の方が相応しい。


王は川の向こうに群がる敵軍を憎々しげに俯瞰している。


黒い目と髪の内側で紅蓮の炎が燃えたぎっていた。


太く皺が寄った指を幾通りにも組み合わせながら、王は何れ訪れる彼らへの復讐を誓い、それが叶うかと思うと腹が割れそうなほど幸福に満たされる。


見よ、野蛮者に殺され嘆く我らが同志よ、もうすぐ彼らの仇を取り再びこの島は静かになる。


戦争は命を奪った。


彼の妻を、そして彼を賢者と呼んだ民を。



「もうすぐです、もうすぐ、もうすぐ。」


厚い唇から不気味な声が漏れた。


賢者と呼ぶには些か相応しくない、狂気も交ったその声帯で。




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