社長の旦那と恋知らずの妻(わたし)
―――バタンッ―
玄関の扉を閉めその場にスルスルと座り込む。
駅から走って帰ってきた所為か息をするのが苦しくて肩を揺らし呼吸をする。
「遅かったな」
そんな声にハッと顔を上げれば壁に凭れ掛かり腕を組む拓斗さんがいて。
「体調はどうですか?」
「あぁ、薬が効いたみたいだ」
「薬が効いて良かったです」
私はそう言いいながら靴を脱ぎそのままキッチンへと足を進める。
「優子」
そんな私の肩に拓斗さんの手が乗った。
ほのかに暖かいけど朝よりは確実に熱が下がってる事が分かる。
「どうしたんだ」
「え、拓斗さん…?」
「どうして泣いているんだ」