社長の旦那と恋知らずの妻(わたし)
「買い物に行った帰り電車に乗ったんです」
「あぁ」
「それで、あの…」
痴漢されました。
と、言いそうになった言葉をグッと堪えて頭を横に振る。
やっぱりこんな事拓斗さんにも言えないよ!
「ううん。本当に何もなかったんです」
「優子」
そんな答えに納得してないのか拓斗さんは私の名前を呼んだけど、私は聞こえない振りをした。
そしてキッチンに向かう為に足早に拓斗さんの横を通り過ぎる。
―――バタン―
そんな後ろから聞こえた音にホッとした。
痴漢の事は誰にも言わない。
忘れてなかった事にすればいい。
だからもういいの。
そうすればいつかは忘れられるから――…