社長の旦那と恋知らずの妻(わたし)
指先を見れば血がつーッと伝ってる。
言わんこっちゃない。
神経を全て注がなかったせいで失敗しこうして血を流す羽目になった。
「優子」
「ふ、はい…!」
咄嗟に切った手を隠しながら視線を拓斗さんに向ければ、食器棚に手をついている拓斗さんとばちりと視線が合った。
「悪いが用が出来た。今から少し出てくる。何時に帰ってこれるか分からないが」
やっぱり、本当に…
拓斗さんは初瀬菫さんの元に行ってしまうんだ。
「そう、なんですか。分かりました」
いつ帰ってきますか?
なんて質問をしたかったのにもたもたな私が喉を動かし口を動かす前に、拓斗さんはリビングから出ていってしまった。